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  • 2024.01.09

イートン、ハロウ、ラグビースクール探訪記

名実共に世界最高の中高一貫校であるイギリス現地イートンCollege、ハロウSchool、ラグビーSchoolを昨年11月の下旬に訪問して来ました。今回はそのご報告となります。

イートンCollege

イートンCollege日本事務局の高月壮平先生にお連れ頂き、普通では入れない校内の貴重な空間に足を踏み入れる事が出来ました。

大学(OX-Bridge)よりもPublic School(イートン・ハロウなどの寄宿学校)での教育が重要とされるイギリス。

数百年もの歴史ある建物を直近で見たり、先生や生徒に実際に話を聞く中で、これらの学校が大学教育より重視される意味が解った気がします。

イートンCollegeは1440年創立、ハロウSchoolは1572年創立。創立以来の教室も現存し、その歴史自体が人間性の涵養(かんよう)に役立っている事は言うまでもありません。イギリスのみならず世界に優秀な人材を排出し続けるイギリスのPublic Schoolとはどんな所なのか、素直な感想と教育の目的についてお話したいと思います。

イートン、ハロウの机や椅子

●ハロウ

●イートン

これらの写真はイートンハロウが設立された当時からある椅子や机の写真です。落書きだらけ、傷だらけですが、こうした歴史を残し、ここで学ぶ事はどれほどの意味があるのか、教育者でなくともご理解頂けると思います。

ウィンストンチャーチルを初め、歴代のイギリス首相や著名人の残した傷跡は、言葉や説明以上にそこで学ぶ生徒達に訴える物があるでしょう。ハリーポッターの撮影で行われた場所ですね。

●ハロウ

●イートン

上記の写真はイートンハロウの在学生や卒業生で、戦争や事故で亡くなった人達を刻んだ物です。教会や学校中央の庭を囲む廊下の壁に書かれています。

学校に在籍した生徒で亡くなった人は全員漏れなく載っているそうです。イートンハロウをはじめとしてイギリスのパブリックスクールは個をとても尊重しますが、どれだけ生徒の事を大事に考えているかが伺えるモニュメントですね。こんな想いを目の当たりにしたら、生徒も一生懸命学んで学校の栄誉に貢献しようと思いますよね。

スピーチルーム

●ハロウ

●ラグビー

上記写真はスピーチルームです。毎週Headmaster(校長先生)が生徒達に訓示を述べたり、卒業生などの斯界の偉人がスピーチにきたりして、在校生に影響を与えてくれます。

イートン・ハロウのOBですからそれはそれは普通では無い卒業生が、普通では聞けないお話をしてくれる訳です。大統領経験者や世界的大手企業の社長、映画俳優や芸術家など、彼らの薫陶(くんとう)ほど中学、高校の年齢の生徒に響く言葉は無いはずです。何より素晴らしい教育ですよね。

●ラグビーschool寮内の学食

この写真は寮の食堂の写真です。イートンには25の寮があり、1つの寮に50人の中高生(13歳〜18歳)が生活をしています。この共同生活がイギリスプブリックスクールの1つの重要な価値です。

5年間、もしくは6年間寝食を共にし、厳しい学校生活を共に謳歌するのです。

ちなみに寮長は各棟にいて、朝起きてから寝るまで生徒の面倒を見てくれます。イートンは学校の先生も広い敷地の中に住んでいて共同生活を送ります。

知り合いのイートンの先生に聞いた所、朝起きてから寝るまで生徒と向き合うのだそうです。学校が休みになる時期以外は土日もほとんどないそうです。もちろんHead Master(校長先生)も校内に住んでいます。生徒と向き合う覚悟が違いすぎますね

●ラグビーのスカラーシップ受賞者

上記写真はスカラーを貰った生徒の名前や写真です。日本人の名前をチラホラ見受けられますね。

イギリスは秀でた能力をもった生徒を表彰し、名誉を与えてくれます。額はそう多くはないですが、勉強以外でも、スポーツ、芸術、音楽の分野で表彰してくれます。

先生と生徒が1対1で授業をしている所をよく見たのですが、それは他より飛び抜けた才能を持った生徒なのだそうです。

日本人的には何か悪い事をして罰として呼び出されていると捉えがちですよね。よく、賞を貰えない生徒は引け目を感じないのですか、と言う質問を受けるそうなのですが、そこが全寮制の良い所で、寮でも友達が努力している姿をみているので、彼らが受賞をして当たり前だと言う文化があるそうです。

public schoolの教育

イギリスのpublic schoolは1クラスが最大で20人程度です。そしてその中でもレベルに応じて上中下3段階に別れています。

さらにその上の能力を有する場合、すでにお話しした様に一人でもクラスを設けてくれるのです。つまり個性を非常に大事にする教育であり、先生方は生徒の個性を発掘し伸ばす事を使命と考えているのです。

また、むしろ日本より勉強もスポーツも規律も厳しいpublic schoolですが、全体号令の様な厳しさではなく、個に向き合った厳しさだと言う事です。先生は生徒と良く会話するし、生徒もよく先生に相談に行くそうです。その関係を5〜6年続ける訳ですから、信頼関係は深まりますよね。

最後に皆さんに質問ですが、皆さんは教育の目的はなんだとお考えですか?受験でしょうか?社会性の育成でしょうか?

イギリスpublic schoolのそれは、お題目無しの“全人教育”です。人としての資質と能力を育成する事です。

その目的はその昔は一旦戦争が始まったら、戦場に出て先頭に立って隊を率いる事だったと高月先生が教えてくれました。だから今でも、学ぶ目的は”責任ある市民の育成”なのだそうです。社会に対して市民としての義務と役割を果たす人材の育成。だからイギリスでは一方で自己の権利の主張も激しいのだと思います。

確かにpublic schoolの授業料は高いどころか、非常に高いです。しかし数百年前から存在する建物や机、椅子、そこに身を置く事ができるだけでも教育的価値は私にはpricelessと言えます。

そのお金では買えない時間や歴史、伝統、そして数百年と変わることの無い先生と生徒の成長物語、その中で紡がれる人間性と人間関係、そして一生の友と師匠。それらは間違いなく世界のどこでも手に入るものでは無いと思います。

惜むらくは、明治維新の時に日本の旧制中学はイギリスのpublic schoolをお手本にして全人教育の仕組みが作られたそうですが、残念ながらその面影は余り残っていない様です。

愛知県の海陽学園もイートン校を日本に作ろうとトヨタ自動車を中心に始まりましたが、内情は中々イートン校の様には行かない様です。

イートン校にまつわる逸話ですが、その昔A-Level(日本の大学入学共通テストのようなもの)のスコアが雑誌(デイリーテレグラフ紙のリーグテーブル)で発表された1991年、イートン校がTOPのスコアを取ったのですが、その情報を知った保護者3名が同時に学校に手紙を送ったそうです。

その内容は、もしそんなに高い順位にあるのなら、イートンはイートンにおける教育の他の重要な側面をなおざりにしているのではないか、と言う内容だったそうです。

明らかに現代日本とは違う教育的価値観を求めている事が伺えますね。

こぼれ話

それから30年。今回イートンの先生にお話を伺って、今一番大変な事はなんですか?と言う質問に、勤務時間が長かったり土日がなくなるのは良いのですが、保護者からの問い合わせへの対応だと言っていました。やはりイートン校と言えども時代の変化で少しづつ事情が変わって来ている様です。